「投資はした方がいいとわかってる。でも、損したらどうしよう」
この不安は正直な感覚です。だからこそ、「なんとなく大丈夫そう」という理由で投資を始めるのも、「なんとなく怖い」という理由で始めないのも、どちらも危うい判断です。
投資を判断するなら、まず数字と向き合うべきです。そしてその数字を、意外なところから借りることができます。私たちの年金を運用している公的機関、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。
GPIFが「想定している」リスクとは
GPIFは第5期中期目標期間の運用計画において、外国株式について以下の数値を公式に使用しています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 期待リターン(年率) | +5.8% |
| リスク(標準偏差) | 24.84% |
「標準偏差」とは、リターンの「振れ幅」のことです。統計学では、95%の確率でリターンが「期待値 ± 標準偏差の2倍」の範囲に収まるとされています。
これを計算すると:
5.8% ± (24.84% × 2) = −43.88% 〜 +55.48%
つまり、1年間で最大約44%の資産を失う可能性が、統計上「想定内」として計算に織り込まれています。これは「最悪のシナリオ」ではありません。「起こりうる範囲」の話です。
100万円を投資していれば、56万円になる可能性があります。1000万円なら、562万円です。それが「想定内」の数字です。
統計を超える現実——リーマンショックという教訓
しかし、現実は統計よりも過酷になることがあります。
2008年のリーマンショックでは、世界の株式市場は2年かけて約50%下落しました。これは統計上の「想定内の最大値(44%)」すら上回る下落幅です。
「1年で44%減」に備えるだけでは足りない可能性があります。「2年かけて半分になる」という精神的・経済的ダメージを、あなたは本当に耐えられるでしょうか。
実際に経験してわかったこと——コロナショックとトランプ関税
正直に言います。下落率の計算は頭では理解していました。「44%減もありうる」と知識としては持っていました。でも、実際に資産が減り始めると、やっぱり震えました。
2020年のコロナショックのとき、わずか数週間で市場が急落しました。あのときはもうアプリを開くのをやめました。見たくなかったのです。数字を知っていても、毎日残高が減っていく画面を直視し続けるのは、想像以上に消耗します。
トランプ関税をめぐって市場が荒れたときも同じでした。ニュースを見るたびに不安になる。それでも、幸いだったのはそのとき本当にお金が必要な状況ではなかったことです。売却というのは、本当にお金が必要になったときにするものだと思っています。その状況ではなかったから、ただ嵐が過ぎるのを待つことができました。もしあのタイミングで想定外の大きな出費が重なっていたら、と思うとぞっとします。
暴落の怖さは、数字だけではありません。毎日資産残高が減り続ける精神的な消耗は、グラフや数字には一切出てきません。そして、生活に余裕がない状態で投資していた人は、最も悪いタイミング——底値付近——で売ることを余儀なくされます。統計で言う「想定内の損失」が、「確定した損失」に変わる瞬間です。
それでも、資産運用が必要な理由
ここまで読んで「やっぱり怖い」と思った方もいるでしょう。ただ、現金を持ち続けることにも、見えにくいリスクがあります。
インフレです。
正直に言うと、以前は「インフレって本当にあるの?」と半信半疑でした。日本はずっとデフレだと言われ続けてきたし、物価が上がる実感なんてほとんどなかったからです。「インフレへの備えが必要」と聞いても、どこか他人事でした。
ところが、2022年頃から空気が変わりました。ロシアによるウクライナ侵攻とその後の円安が重なり、エネルギーや食料品の価格が急騰し始めたのです。スーパーに行くたびに値段が上がっている。外食が高くなった。光熱費の請求書に驚く。そういう「体感」として、インフレがリアルに迫ってきました。
実際、2022年4月の消費者物価指数は前年比+2.5%、同年12月には+4.0%まで上昇。2023年は+3.1%と、41年ぶりの物価上昇率を記録しました。物価が年2%上昇し続けると、10年後には今の100万円の価値が約82万円相当に目減りします。預金金利がほぼゼロの日本では、「動かさない」こと自体がじわじわと資産を削る選択になっています。
インフレは「遠い国の話」ではありませんでした。気づいたときには、すでに始まっていました。
一方、長期的な視点で見れば、世界経済は過去に何度も暴落を経験しながら、それでも成長を続けてきました。リーマンショックで半値になった株式市場も、数年後には回復し、その後さらに高値を更新しています。
暴落を「乗り越えられた人」と「乗り越えられなかった人」の差は、知識でも運でもなく、「半分になっても生活が維持できる設計をしていたかどうか」です。
結論:リスクは「避けるもの」ではなく「収めるもの」
投資において重要なのは、リスクをゼロにすることではありません。自分が許容できる範囲にリスクを収めることです。
GPIFのデータが示す現実を整理するとこうなります。
| シナリオ | 最大下落幅 | 備考 |
|---|---|---|
| 統計上の想定内(95%) | 約 −44% | GPIFの標準偏差から算出 |
| 歴史的大暴落(リーマン) | 約 −50% | 2年間にわたる下落 |
この数字を見た上で、「資産の半分が消えても生活を維持できるか」を問いかけてください。維持できる範囲の金額なら、長期投資という「有利なゲーム」に参加する価値があります。
数字は嘘をつきません。だが、現実は数字を上回ることがあります。それを知った上で、それでも参加するかを決めるのが、本当の意味での「投資判断」です。

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